生活習慣病を予防する特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
前回、血圧とはそもそも何か、そして高血圧とはどのような状態かについて解説しました。今回は、高血圧の状態を放っておくと生じる合併症と高血圧にならないための予防法について解説します。
高血圧は、サイレント・キラー(沈黙の殺し屋)とも呼ばれています。そう呼ばれるのは、多くの場合、目立った自覚症状のないまま、知らず知らずのうちに症状が進行し、動脈硬化などが進行して、やがて命にかかわるような合併症を突然引き起こしてしまうためと言われています。
実際のところ自覚症状が全くない!というわけではないのですが、急激に血圧が上がったりするとめまいや頭痛を起こしたり、肩こりなどを訴えているようなケースもあります。そして、血圧の高い状態が続くと、知らない間に心臓や血管に強い負担をかけてしまい、心臓や腎臓、血管などにさまざまな場所に障害が現れるようになり、取り返しのつかない病気を発症してしまう可能性が多いにあります。
長い間、高血圧の状態が続くと血管に過度の負担がかかります。そして、順応するために血管壁が厚くなり、傷つきやすくなります。さらに、血管に傷ができてしまうと、そこにコレステロールが沈着し、血管の内腔を狭めてしまいます。つまり、血管の弾力性が失われ(動脈硬化)、血液が流れにくくなり、心臓はより圧力をかけないと血液を送り出すことが出来なくなってしまうのです。
●脳出血
動脈硬化で、もろくなった脳の血管に、高血圧による高い圧力が加わると、血管が破れて、大出血を起こします。その他、脳の血管に出来たこぶが破裂して出血するくも膜下出血などがあります。出血した血液が脳内の神経を圧迫するため、後遺症として左右どちらか一方の顔や手足などに麻痺やしびれが残ります。くも膜下出血では突然激しい頭痛も起こります。
●脳梗塞
動脈硬化が進行して狭くなった脳の血管が詰まり、その部位より先に血液が送られず、脳細胞が死んでしまいます。脳梗塞を起こした部分の神経細胞が死んでしまい、脳出血と同様に、顔や手足の麻痺やしびれに加え、ろれつが回らない、言葉が出にくいなどの言語障害が現れます。
血圧の高い状態が続くと、心臓は常に高い圧力で血液を送り出し続けなくてはならないため、次第に心筋が肥大していきます。心筋が厚くなると、心臓の収縮力が弱まってしまい、十分に血液を送り出せなくなります。このように心臓の機能が低下した状態を「心不全」と言います。
心臓の筋肉に酸素や栄養を送っているのが、心臓を取り巻く冠動脈です。動脈硬化が進行し、血管が詰まって血流が止まると、一時的に心臓の筋肉が酸素不足に陥ってしまいます。(狭心症)これが、さらに進行し冠動脈に血栓がつまり、完全に血流が途絶えてしまうと、その先の心臓の筋肉に酸素や栄養が行き届かなくなり、細胞が壊死し「心筋梗塞」を起こしてしまいます。
腎臓は、血液を濾過する機能を持つ「糸球体」という組織の集合体です。糸球体に集まってくる細い血管に動脈硬化が起こると(腎硬化症)、血液が悪くなり、ろ過機能が低下してしまいます。極端に機能が低下した状態が「腎不全」です。腎不全になると、ろ過されるべき老廃物が体内に溜まり「尿毒症」へと進行することもあります。そのため生命維持のために人工的に血液をろ過する透析療法が必要になります。
高血圧は目の合併症も引き起こす恐れがあります。高血圧の影響により、網膜が損傷してしまう病気です。網膜の出血や白い斑点、むくみなどが起こります。自覚症状はほとんどありませんが、放置すると網膜剥離が引き起こされる恐れがあり、とても危険です。視力の低下や物が歪んで見えるなどの症状もあります。
血管性認知症も高血圧の合併症の一つです。これは、脳出血や脳梗塞などの脳血管障害が起こり、その後遺症が残ったことで引き起こされる認知症と言われています。脳の一部が萎縮して起こるアルツハイマー認知症の次に多い認知症のタイプです。
血圧を下げる基本は、ライフスタイルの改善です。毎日の生活で、血圧を上げるような要因を取り除くことが大切です。同時に肥満を取り除くことも念頭において、食事や運動に気を配るようにしましょう。
日本人の平均的な食塩摂取量は平均10.1gと低下傾向ですが、伝統的な日本食は塩分が多く、海外と比べ日本人の食塩摂取量は多いと言われています。
高血圧治療ガイドライン2019では、「食塩1日6g未満」を減塩の目標とされています。健康な人の場合、日本人の食事摂取基準2020年版では目標量を「1日男性7.5g未満、女性6.5g未満」としています。
濃い味に慣れてしまっていると減塩食を続けるのはなかなか難しいかと思います。そこで、工夫をすることで毎日の食事を美味しく、あまりストレスを感じないようにしましょう。
旬の食材や新鮮な食材を選ぶことで、栄養価が高くうま味なども楽しむことができます。出来るだけ、素材本来の風味やうま味を活かした調理をすると季節感なども味わうことができます。
しっかりと味付け料理は1品にして、その他の料理は風味や酸味などを活かすようにしましょう。
わさびや生姜、山椒、カレー粉などの香辛料、そして、レモンやゆず、酢などの酸味を活用することで、味にメリハリがつき、塩分を控えめにしても美味しく楽しむことができます。
鰹節や昆布、椎茸などの出汁を効かせ、うまみ成分や風味によって、塩分を控えめにしても素材本来の味を楽しむことができます。
加工食品は少量でも塩分が多いため、食べる量や頻度を減らしましょう。
野菜や果物、豆類、きのこ類などに含まれるカリウムは、体内の過剰なナトリウムの排泄を促してくれます。
※腎機能が低下している場合には、心臓に負担が掛かる可能性があるため、主治医に相談してみましょう。
ラーメンなどの麺類の汁は半分以上残すようにしましょう。また、味噌汁は具を食べて、漬物などはできるだけ残すようにしましょう。
肥満の人は高血圧になりやすいため、食事でのエネルギー摂取を控え、運動習慣を取り入れて肥満を解消し、適正な体重を目指しましょう。
運動を行うことで肥満の解消だけでなく、降圧剤並みに血圧を下げる効果があると言われています。その理由として、筋肉を動かすことで血圧を下げるプロスタグランジンという降圧物質が増加することが挙げられます。降圧物質は、血管を拡げて尿の排泄をしやすくするため、余分な水分や塩分などが排泄されます。さらに、プロスタグランジンによって血管が拡げられるだけでなく、血中の中性脂肪を低下させ、善玉コレステロールを増やす働きがあり、動脈硬化の予防にも繋がります。
種類 | 有酸素運動 ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなど |
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強度 | 1分間の心拍数110~120程度 |
頻度 |
週3回以上、細切れでもよいので1日に合計30分以上の運動を行いましょう。無理なく長く続けられる運動や日常生活のちょっとした動作を意識してみましょう。 エレベーターやエスカレーターを使わず、階段で上り下りするなどの日常生活の中でできる運動を行うのも有効です。自分に合った方法を見つけましょう。 |