生活習慣病を予防する特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
今月は、食感に注目します。
食感とは、食物を口の中に入れたときに、口の中や喉などで受ける感じのことをいいます。
食感の主な表現としては、さっぱりとした口あたり、なめらかな舌ざわり、つるりとした喉ごし、シャキシャキした歯ごたえ、サクッとした歯ざわり、などがあります。
このように、食感は、触覚が関わることから、物理的な味とも言われています。 その一方で、味や香りは、味覚や嗅覚と各種成分が関わることから、化学的な味とも言われています。
そして、物理的な味と化学的な味、つまり、食感と味と香りが組み合わさることによって、さまざまなおいしさがもたらされます。
ただし、ある食品のおいしさの大半は、食感によってもたらされます。
それは、私たちの主食である、ご飯です。
例えば、全く同じ米を使い、炊きたてのご飯と、昨日炊いて冷蔵保存したご飯とを食べ比べたら、どちらのほうがおいしいと感じるでしょうか?
きっと、前者のほうをおいしいと感じる人が圧倒的に多いことでしょう。
その理由は、ご飯が冷めると、化学的な味には大きな変化はみられませんが、物理的な味である食感に圧倒的な変化がみられるからです。
この変化をもたらしているのは、デンプンです。
生米に含まれるデンプンは、結晶状で、βデンプンと呼ばれており、水と熱が加わると、水を吸って膨らみます。
すると、粘り気のある糊状のαデンプンに変化します。そのため、炊き立てのご飯はふっくらもちもちとしているのです。
しかし、αデンプンは、温度が下がると、硬い食感のβデンプンに戻ってしまいます。そのため、冷えたご飯は硬くボソボソとしているのです。
そこで、ご飯を保存する場合は、炊きあがったらすぐに小分けにして冷凍すれば、αデンプンの状態を保つことができます。そして、食べる際は、電子レンジなどで急速に解凍すれば、おいしさを損なわずに食べることができます。
食感のセンサーは口の中に2種類あり、食感の種類によって、どちらかが主に反応します。
食感のうち、口あたり、舌ざわり、喉ごしのセンサーは、粘膜と舌です。
そして、そこに触れた食品から、さまざまな情報(なめらか、ザラザラ、みずみずしい、粒子の状態((砂状、粒状、繊維状、結晶状など))、表面の状態((パサパサ、しっとり、こってりなど)) )を受け取っています。
また、歯ごたえ、歯ざわりなどのセンサーは、歯根膜(しこんまく:図1参照)です。
歯根膜とは、歯を支える歯槽骨と、歯の根元との間に存在する線維のことです。厚さは0.2mm前後で、歯槽骨に歯を固定する役割のほかに、歯にかかる圧力を吸収するクッションの役割を担っています。
そして、歯根膜は、噛んだ食品から、さまざまな情報(硬さや軟らかさ、もろさ、弾力性、粘度((サラサラ、ドロドロなど))、粘着性((ネバネバ、ベタベタなど)) )を受け取っています。
しかし、歯根膜は、歯が抜ければ一緒にはがれ落ちてしまうため、入れ歯などの義歯では食感を感じにくくなります。
いつまでもおいしく食べるためには、自分の歯を長く保つことも重要なのです。
噛むことによって歯根膜が受け取った情報をはじめ、食べることによって受け取った食感や味覚などのさまざまな情報は、神経を通じて脳へ送られ、脳の中の「運動」「感覚」「記憶」「思考」「意欲」に関わる部分を広く活性化させることがわかっています。
なかには、ほぼ寝たきりの状態だった人に、噛むことを意識した治療を行った結果、歩けるまでに回復させられた例もあります。
また、ある調査によると、ガムを2分間噛んだ後は、年齢に関わらず、記憶をつかさどる脳の海馬(かいば)と呼ばれる部分が活性化した上に、高齢者では、脳の知的機能に関わる前頭連合野などのさまざまな部位も活性化したという結果が出ています。
その理由は、五感の衰えによって、若年者と比べて脳に伝わる情報が少なかったのが、ガムを噛むことなどによって脳に伝わる情報が増えたからと考えられています。
来月のテーマは、「温度 ~おいしさの秘密~」です。