神経症 ②恐怖状態について
神経症の分類とその症状
神経症には次の5つの典型的な病型があり、それぞれ特徴があります。
- 不安・神経症的な抑うつ状態
- 恐怖状態
- 脅迫、解離・転換状態
- 環境反応
- 妄想状態
それぞれ独立した症状でありながら、混合して現れたり、移行し合うこともあります。また、身体疾患に合併することもあります。
今回は、2. 恐怖状態 を詳しく見てみましょう。
知っておきたい病気の知識
恐怖状態とは、何らかのものや出来事に対して強い恐怖心を持つために、日常生活や社会活動に支障をきたしている状態をいい、恐怖の対象によって、特定恐怖、社会恐怖、疾病恐怖などに分類されます。
A.特定恐怖
動物、鳥、昆虫、高所、閉所、暗闇、雷、飛行機、注射、血液、歯科や病院など、ある特定の対象物や状況に対して恐怖を感じ、それらを避けたり苦痛に感じることによって、日常生活が制限されます。
- 症状
ある特定の対象や状況にさらされると、パニック発作(健康管理情報2004年11月号参照)を起こすこともあります。また、流血や外傷に恐怖を感じる場合は、その75%に脳貧血がみられます。
- よく発症する年代
発症は小児期と20代半ば、女性に多く見られるといわれます。動物や自然現象に対して恐怖を感じるタイプの75~90%が女性、高所恐怖や流血、注射、外傷に対して恐怖を感じるタイプはやや女性の割合が低くなり、55~70%を占めるという報告があります。
- 原因
子供の頃の恐怖が残存するか、偶然経験した恐怖がきっかけとなります。
- 治療
生活の中で恐怖の対象を避ける工夫をして、生活に大きく支障がないまま、ちょっとした弱点として放置されるうちに軽減されることが多いです。治療を施す場合は、あえて恐怖を生じさせる対象や状況を体験していく暴露(ばくろ)療法という行動療法が効果的です。また、恐怖の対象に対するゆがんだ思考パターンを修正する認知療法が有効とされています。
- 生活上のアドバイス
治療によって症状に対する苦痛が改善されるので、ひとりで悩むより専門医に相談するとよいです。
B.社会恐怖
「社会不安障害」とも呼ばれ、「対人恐怖症」、「赤面恐怖症」といわれていました。自分の言動を恐れ、手や声が震える、言葉がつまるなどの症状が現れる緊張型と、周囲の視線やどう思われているかがとても気になり、相手の言動や行動から「自分が人を不愉快にさせている」と思い込む確信型があります。
- 症状
状況に対する「予期不安」とその状況からの「行動回避」が現れます。例えば、「収集がつかないような出来事が起こるのではないか」という強い恐怖で、そのようなことが起こりそうな状況を避けることなどです。
- よく発症する年代
小児期でもみられますが、10代半ばでの発症が多く、25歳以上では稀です。男性よりも女性に多いといわれますが、実際に外来を受診するのは、同数か男性の方が多いという報告もあります。
- 原因
原因は解明されていませんが、遺伝的体質(セロトニン、ドーパミンの機能が弱い)や生活環境(過保護や過度のしつけ、両親の不和、虐待など)が大きく影響するといわれています。また、実際に人前で何か大きなミスをしてトラウマになった結果起こる場合もあります。
- 治療
薬物療法と認知、行動療法が併用されます。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬が用いられてきましたが、抗うつ薬(SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)も効果があることが分かってきました。
- 予後とアドバイス
ストレスによって症状が悪化することもあります。早期に医療機関を訪れ、患者とその家族、医師が協力をして小さな前進の積み重ねをすることによって、症状が緩和されます。また、就職、結婚などの生活環境の変化で症状が全くなくなることもあります。
C.疾病恐怖
心身のささいな不調にこだわったり、特定の疾患を恐れるあまり、その病原体だけでなく、関連した情報全てを恐怖の対象として避けるようになります。この恐怖を示すのが「心気症」という病気です。
- 症状
執拗にとらわれる疾病として、脳腫瘍、脳卒中、胃がん、高血圧症、心臓病などです。脳腫瘍を恐れている人は頭痛、頭重、耳鳴り、しびれ、胃がんを恐れている人は胃痛、食欲不振、悪心、高血圧や心臓病を恐れている人は頭痛、動悸、発汗などを訴えます。また、病気ではないとする医師の診断を全く聞き入れようとしないことが多いです。
- よく発症する年代
小児期から高齢者まで、さまざまな年代で発症します。
- 原因
原因は不明ですが、心身過労が続いて不眠や大量の飲酒がきっかけとなって発症したり、家族や友人が病気にかかったり急死した時に発症することがあります。
- 治療
身体的不安がある場合は、当該科できちんとした診察を受けることが原則です。異常がないといわれても不安でたまらないなら、他の医師にセカンドオピニオンを求めることもできます。それでも納得できず、不安が続くようなら、精神科や心療内科への受診がすすめられます。 そして、精神科や心療内科では、心気症であることが確定された上で、本人の訴えをよく効くことからスタートし、身体的疾患がないことを繰り返し説明して安心させる精神療法をすすめます。
- 予後とアドバイス
家族も医師と同様、患者の訴えをよく聞くと同時に、十分な検査をしたから大丈夫であるということを伝えることが大切です。