健康管理情報

神経症① ~こころがもたらす体のサイン~

2004年11月号
更新)
こころがもたらす体のサイン

こころの病気は、どんな人でもかかる可能性があります。厚生労働省によると2020年の患者調査で、通院や入院をしてくれる人は約614万人いると言われています。

神経症とは、生活の中で感じている心配や不安が著しく高じた状態とそれによって現れるさまざまな症状の総称です。よく用いられてきた「ノイローゼ」という言葉も神経症のドイツ語からきています。

日常の心配や不安と神経症のそれとの違いはなんでしょうか。

健康的な悩み

解決の困難な問題に直面したり不幸な出来事が起こった時にはいいようのない不安にとらわれます。ときには必要以上に心配したり、何度も確認をしたり、逃げ出したくなったりします。
誰もが経験する「不安によるための苦悩」は、健康的な悩みといえます。過ぎてしまったことをあれこれ思い悩む傾向の強い人は「心配性」や「神経質」ともいいます。

健康的な悩みと神経症を区別する診断基準は、その症状のために本人が一定期間(約一ヶ月)以上、大きな苦痛を感じ、同時に仕事や人間関係に大きな支障をきたしているか否かとされています。

神経症の分類とその症状

神経症には次の5つの典型的な病型があり、それぞれ特徴があります。

  1. 不安・神経症的な抑うつ状態
  2. 恐怖状態
  3. 脅迫、解離・転換状態
  4. 環境反応
  5. 妄想状態

それぞれ独立した症状でありながら、混合して現れたり、移行し合うこともあります。また、身体疾患に合併することもあります。

今回は、1.不安・神経症的な抑うつ状態を詳しく見てみましょう。

知っておきたい病気の知識
A.全般性不安障害

その名のとおり、全般性でかつ持続的(1年以上)な過剰の不安が特徴です。

  1. 症状
    落ち着きがない、疲れやすい、集中力が湧かない、外からの刺激に敏感になりやすい、いらいらしやすい、首や肩のこり、頭痛、動悸、めまい、頻尿、下痢、不眠などの症状のうち、3つ以上を伴っていることが診断に必要となります。
  2. よく発症する年代
    発症は10代半ばに多く見られるとの報告もありますが、精神科には時間が経過してから受診するケースが大半なので、35歳以上に多いともいわれます。
    男性よりも女性にやや多く(1.5~2倍)、不安障害専門外来では12%を占めています。
  3. 原因
    原因は解明されていませんが、遺伝的要因や正確、あるいは幼児期に肉親との離別体験、現在のストレス、自律神経系の機能障害が考えられます。
  4. 治療
    抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)は、過度の不安などによく用いられ、短期間であれば効果があります。長期にわたって使用すると、精神的依存や眠気、認知・運動面での機能低下などの副作用があります。ですから、長期にわたる治療の場合は、精神療法の方が有益な場合が多く、認知・行動療法やリラックス方を組み合わせて治療をすることもあります。
    経過は慢性で、日常生活のストレスの影響を受けて良くなったり悪くなったりします。うつ病に移行するケースも多く見られます。
  5. 予後とアドバイス
    患者やその家族も病気について理解できずに「性格のため」、「気にしすぎ」と決めつけて、あきらめたり放っておくことが多いです。良い信頼関係を保てる医師へ受診するのはもちろんのこと、症状へのとらわれをなくし、楽しみを見つけることが大切です。
B.パニック障害

以前は「不安神経症」といわれていました。他に「心臓神経症」、「過呼吸症候群」とも呼ばれます。

  1. 症状
    身体の病気がないのに、突然前ぶれもなく、動悸や呼吸困難、めまいなどの発作(パニック発作)を繰り返し、同時に「このまま死ぬのではないか」と耐えがたい恐怖を伴います。さらに、「また発作が起こるのではないか」という発作への不安(予期不安)が増加して外出などが制限されます。
    また、パニック発作やそのような症状が現れたときに逃げることができない、助けが得られないような状況にいることに対し、強い不安を感じて、その状況を広範囲に避けるようになります(広場恐怖)
  2. よく発症する年代
    1回でもパニック発作を起こす人は、10人に1人で、そのうち1/4が発作
    を繰り返し、パニック障害になります。
    男性よりも女性に多く(2~3倍)、男女とも20~30歳代(男性の方がやや若い傾向にあります)で発症しやすいです。
  3. 原因
    原因は解明されていませんが、「パニック発作」は自律神経を統御する脳幹部、「予期不安」は情動などを司る大脳辺縁系が関係しているという仮説があります。
  4. 治療
    パニック発作には副作用の少ない抗うつ薬(SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が第一選択となっていますが、効果が現れるまで1~2週間かかることが多いので、根気よく服用を続けることが大切です。
    予期不安には投与直後から効果があるベンゾジアゼピン系の抗不安薬が用いられます。しかし、薬を止められなくなってしまったり、眠気やふらつき、動作が鈍くなるなどの副作用があるので、注意が必要です。
    また、階段を上った後に息がはずむといった、生理的な変化を、「発作が起きた!」と間違った認知をする傾向があります。誤った考えを訂正する認知療法も有効です。
    パニック発作⇒予期不安⇒広場恐怖症と進み、さらに、うつ病を併発する場合もあるので、周囲の人の注意が必要です。
  5. 予後とアドバイス
    疲労や睡眠不足は、パニック発作を起こしやすくするため、十分に休養をとりましょう。アルコールやカフェインは、症状を悪化させます。
    「薬の副作用が怖い」、「気力で完治しよう」という考えは得策ではありません。適切で十分な薬物療法を行い、パニック発作がなくなってから、認知療法を行う段階に移ります。

来月のテーマは、「神経症② ~こころがもたらす体のサイン~」です。