生活習慣病を予防する特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
毎年、花の咲く頃になると中国の詩人・孟浩然の「春暁」の有名な詩の一節「春眠暁を覚えず」をよく耳にします。春の夜はとかく寝心地が良く、夜明けも知らず眠り続ける、という意味ですが、さて今春、世の中には心地よい眠りをしている現代人は何人いたのでしょうか?
みなさんも、眠ろうとした時に楽しいことを考えて興奮したり、試験や重要な約束ごとを控えて緊張すると1度は不眠を経験したことがあるでしょう。しかし、多くの場合は一時的なもので心配いりません。
一般的に最適な睡眠は8時間が良い、とされてきましたが、個々の体質や状態にもよります。大切なのは、睡眠の満足感が得られているか?ということです。ですから、人によっては6時間でも満足感が得られているようであれば心配する必要はないでしょう。
問題なのは不眠の状態が長時間続き、身体的にも精神的にもつらくなっている状態がある場合です。 日本の全国調査では、成人のおよそ5人に1人は不眠の訴えがみられ、頻度は年齢とともに増加しています。
不眠には次のようにいくつかのパターンがあり、1人1人がいくつかのタイプを併せ持っていることも少なくありません。
まず、何が原因でどのように眠れなくなっているのかを確認することが重要です。
環境的な原因 | 騒音、気温、採光、寝具 |
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心理的な原因 | 心配、不安、緊張、恐怖、悲しみ、興奮、喜び、昇進や婚約等の慶事、人生の大きな事件 |
生活リズムの変化 | 時差ぼけ、交替勤務などの不規則な生活、睡眠リズムの障害 |
身体的な原因 | 疼痛、かゆみ、発熱、呼吸器疾患、心循環系疾患、頻尿、内分泌系疾患、代謝疾患、錐体外路疾患、てんかん、など |
薬物 | アルコール、カフェイン、ステロイド、降圧剤、抗がん剤、など |
精神医学的な原因 | 躁病、うつ病、神経症、興奮、不穏、多動、など |
夜間異常現象が原因 | 夢中遊行、夜驚、夜尿、睡眠時ぜんそく、睡眠時てんかん発作、睡眠時無呼吸症、むずむず脚症候群、など |
明らかな原因のないもの | 精神生理性不眠 |
ここでは代表的な睡眠障害による不眠を紹介しましょう。
多くの人は24時間周期に基づく環境の時間(昼夜の明暗によるリズム)と実際の生活時間をある程度合わせ、かつ社会生活に支障をきたさないよう、一定の範囲内で寝る時間と起きる時間を守っています。このようなことは特別意識する必要もなく、体内に備わっている24時間周期のリズムによって自然にできています。
ところが、この24時間周期リズムがずれてしまう人がいます。
たとえば、夜間勤務がある人や外国に頻繁に行く人、夜更かししている人など、昼夜逆転の生活を送っている人がそうです。また、生まれつき25時間周期のリズムを持っている人もいます。
このような人は睡眠と覚醒のリズムを24時間周期の環境時間と合わせることが困難になります。眠りのリズムが後ろにずれる症状を「睡眠相後退症候群」前にずれる場合を「睡眠時相前進症候群」と呼びます。
不眠が続き、特別な原因がない場合、「よい眠り」へのこだわりが不眠を招いています。それが「精神生理性不眠」です。その特徴は眠りにこだわり、ぐっすり眠ることに執着していることです。健康や眠りに対しての理想像があり、それを守ろうとする完璧主義の人がかかりやすいといえます。
精神生理性不眠については、患者が抱えている理想的な眠りの形が、医学的に根拠があるかについて、専門家から説明を受け、いたずらに不眠について不安を抱かないようにする必要があります。
寝ている時に10秒以上、呼吸が止まり、その都度眠りが浅くなり、睡眠が妨げられ日中に眠気が強くなるのを「睡眠時無呼吸症候群」といいます。居眠りをするなどして生活に支障をきたしたり、車の運転中の居眠りで事故を起こしてしまうなど危険につながる病気です。
睡眠時無呼吸症候群では、一晩に呼吸が止まっている状態が100~200回ありますが、窒息死することはありません。呼吸が停止して、血液中の酸素の量が一定量以下に下がると、脳が呼吸をするように指令を出し、再び呼吸をすることができるからです。
しかし、酸欠状態があると、脳や心臓に大きな負担がかかりますので、体は十分な睡眠や休養がとれなくなり、いろいろな支障が現れます。また、5~10年も無呼吸状態を放置しておくと、高血圧や心臓肥大、心不全、狭心症、心筋梗塞などにも発展する可能性も高くなります。
睡眠時に呼吸が止まってしまう原因は、脳の病気があるために脳で呼吸をつかさどっている呼吸中枢のはたらきを障害する場合、気道が狭くなって起こる場合、さらにその混合型があります。特に多いのは気道が狭くなって起こる場合です。気道が狭くなる要因として、肥満、扁桃腺が大きい、舌が大きい、下あごの発育不全、飲酒、甲状腺の異常や上部気道に腫瘍ができていることなどがあります。
気道が狭くなることが原因の無呼吸症の場合には、睡眠前の飲酒や睡眠薬の服用を控えてください。お酒や睡眠薬の作用で気道がさらに狭くなる危険があります。またこの人たちは、無呼吸の後に大きないびきをかくのが特徴です。しかし、呼吸中枢が原因の場合にはいびきが強く訴えられることはありません。
睡眠時無呼吸症候群の原因にはいろいろあり、その原因によって治療の仕方が異なります。症状の改善のためにはきちんと専門家の診察を受けることが必要です。
睡眠障害の種類、原因などによって治療方法は異なってきます。
まずは、精神科をたずねて原因を明確にし、正しい治療をするようにしましょう。
睡眠中は体や脳が休息をとるだけでなく、体に大切なことが数多く起こります。成長ホルモンは睡眠中に出ますし、昼間できた傷が修復され、肌がきれいに保たれます。よく眠ることは健康の基本です。
「眠れない日が続いている」、「寝た気がしない」、「寝つきが悪い」など、今までの生活と違うな、と感じたら、それは体の発するサインです。見逃さないようにし、正しいケアをしてあげましょう。
この度、厚生労働省研究班より「睡眠障害の予防のための指針(案)」が作成されました。不眠でお困りの方、この指針(案)を参考に上手に眠るコツを探ってみましょう!
※ 厚生労働省研究班作成
第1条 | 昼間に眠気を感じないなら睡眠は十分 |
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第2条 | 眠る前は刺激物を避け、リラックス |
第3条 | 就寝時刻にこだわりすぎない |
第4条 | 同じ時刻に毎日起床 |
第5条 | 光の利用でよい睡眠 |
第6条 | 規則的な3度の食事と運動習慣 |
第7条 | 昼寝は午後3時前の20~30分 |
第8条 | 眠りが浅ければ睡眠時間を減らす |
第9条 | 激しいいびき、呼吸停止などは要注意 |
第10条 | 十分眠っても日中眠気が強ければ専門医に |
第11条 | 睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと |
第12条 | 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全 |
来月のテーマは、「夏バテ -クスリになる食材あれこれ-」です。