学会参加報告 <日本糖尿病学会>
2023.08.03日本糖尿病学会年次学術集会に参加いたしました
~「日本糖尿病学会」年次学術大会より~
当協会では、生活習慣病や健康管理に関連する学会に加盟し、最新の学術情報を収集しています。今回は、2023年5~6月(オンデマンド配信期間を含む)に開催されました「第66回 日本糖尿病学会年次学術集会」の中から現在、糖尿病に関してどのようなテーマで研究が行われているのか、一部内容を抜粋しご報告させて頂きます。
学会名 | 日本糖尿病学会 |
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報告内容 |
糖尿病患者における脂質異常症の予防について糖尿病患者における脂質異常症を予防するためのポイントについて発表が行われた。糖尿病患者の食事として、低GIで野菜・果物・魚が多く、低不飽和脂肪酸、抗酸化物質が多い「地中海食」が注目されている。地中海食では、HbA1c、総コレステロール、体重の低減につながることが分かった。また、炭水化物の摂取量を減らし、代替えとしてナッツの摂取を取り入れることで、HbA1cの低減がみられた。さらに、糖尿病患者がn-3系脂肪酸(オメガ3)の摂取をすると、心筋梗塞のリスクが約62%低減する結果が得られたことより、n-3脂肪酸(オメガ3)であるDHAやEPAを含む魚の積極的な摂取がすすめられる。そして、糖尿病患者では、卵の摂取などによる食事性のコレステロール反応が高いことが分かっており、糖尿病をともなう冠動脈疾患(心疾患)がある場合、卵の摂取は控えめにした方が良いと考えられる。脳卒中への関与は結論が出ていない。
2型糖尿病の発症と遺伝の関係2型糖尿病の発症に起因する遺伝子についての発表が行われた。遺伝子は個々人によって数百万箇所の違いがあり、遺伝子の個人差が細胞で作られるタンパク質の質や量などに違いを与える。1つの遺伝子変異が、病気の発症に大きく影響を与えることも稀にあるが、2型糖尿病の発症に関しては、500を超える多くの遺伝子の個人差が少しずつ影響を与えていると考えられる。その中でも、アジア人では「KCNQ1」という遺伝子が、欧米人では「TCF7L2」という遺伝子が糖尿病に最も深く関与していると考えられている。こうした遺伝子変異の確認をすることで、2型糖尿病発症のリスク予測ができるようになってきた。また、日本人では、遺伝子の変異によりインスリンを合成する膵臓のβ-細胞や、インスリン分泌機能に影響が出るケースが多いことが分かっている。こうした遺伝的ハイリスクを持つ場合でも、生活習慣の介入により糖尿病の発症率を低減させることが出来るため、食事、運動など発症予防への取り組みが推奨される。
医療ビッグデータから見た日本人が取り組むべき糖尿病予防最新の医療ビッグデータから見た2型糖尿病の原因となる項目についての発表が行われた。2型糖尿病は、糖尿病の家族歴、現在の喫煙習慣、BMI25以上、閉経などがリスクとなることが分かった。2型糖尿病の予防では、運動のみでは効果が出にくいため、食事療法を行うことで発症リスクを低減することが大切である。アルコールの摂取に関しては、ビール大瓶1.5本/日、日本酒1.6合/日以上で糖尿病リスクが上がっていた。そして、少量を高頻度で飲む場合よりも、頻度は少ないが一度に多量に飲む方が糖尿病のリスクにつながっていることも判明した。睡眠時間と2型糖尿病発症率の関係については、7~7.5時間で最も発症リスクが下がり、それより少なくても多くても、U字型にリスクが徐々に上がる傾向がみられ、睡眠時間が6.5時間より短くなると、糖尿病のリスクが明らかに上がっていることが分かった。
2型糖尿病発症予防への未病アプローチ今回の研究は、未病の段階での介入を行うことで2型糖尿病への進展予防のための戦略となることを見据えたマウスを用いた研究であり、今後の人への応用を期待した報告であった。全身の代謝調節には脳が司令塔として役割を担い、各臓器に指令を送っているという点に着目し、脳機能へのアプローチが血糖値および脂肪の代謝に変化を起こす可能性について調べたものである。過去に高脂肪食を食べた経験のあるマウスが、空腹時に好きな食事の匂い(高脂肪食など)を嗅ぐだけで、血糖値に変化はないものの、血中遊離脂肪酸の増加が見られた。この遊離脂肪酸は、脂質の代謝に良いとされる不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸)であることから、好きな食事の匂いを嗅ぐことで脂質の代謝が亢進していることが分かった。さらに、実際に食事をした場合においても、匂いを嗅いだ後に食事をすることで血糖値の変化はないが、脂質の消化・吸収が高まるという結果が確認された。つまり、通常空腹時に食欲を増加させるグレリンが優位となるところ、好意的な嗅覚情報によって交感神経が刺激されて、満福中枢を刺激し食欲を抑えるレプチンが優位な状態に切り替わり、さらには脂質の代謝が促されている可能性が示唆された。匂いの影響は、今後の糖尿病治療の発展に大きく寄与する可能性があると期待されている。
高齢者糖尿病患者の併存症について現在、糖尿病患者の高齢化が進み、糖尿病や合併症のリスクだけではなく、「併存症(へいぞんしょう)」と呼ばれる認知症やフレイル、サルコペニアなどの予防管理について考慮すべきとの考えから、「高齢者糖尿病診療ガイドライン2023」において、新たに治療目標に併存症の項目が多く付け加えられた。高齢者糖尿病患者の場合、非高齢者よりも網膜症・腎症・神経障害、脳卒中などの動脈硬化性疾患の合併症を起こしやすく、また、認知症、サルコペニア、うつ病、心不全などの併存症をきたしやすいという結果が数多く報告されている。脳卒中など動脈硬化性疾患は、発症すると服薬管理が必要となったり、麻痺などを生じることがあり、日常生活に介助が必要となったり、時間的制約や活動量の低下あるいは、患者本人や家族のQOLの低下が生じやすいという問題が挙げられる。併存症については、BMIが低く、HbA1cが高いほどフレイルやサルコペニアになるリスクが高い。また、低血糖や高血糖(神経障害などを起こすため)は転倒のリスク因子であることからも、より一層の血糖コントロールが糖尿病だけではなく併存症の予防管理に重要となっていくことが報告された。
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