学会参加報告 <日本糖尿病学会>
2022.07.12日本糖尿病学会 学術年次学術集会に参加いたしました
学会名 | 日本糖尿病学会 |
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テーマ | 知の輝きと技の高みへ~人の集いがつくる明日の糖尿病学~ |
日 程 |
現地開催:2022年5月12日~5月14日 オンデマンド配信:2022年6月1日~30日 |
報告内容 |
当協会が賛助会員として加盟しております「日本糖尿病学会」の学術集会が開催され参加致しました。現在、糖尿病に関してどのようなテーマで研究が行われているのか、一部内容を抜粋しご報告させて頂きます。
糖尿病患者における動脈硬化予防の重要性糖尿病患者の動脈硬化予防の重要性について発表が行われた。 糖尿病になると、血液中の過剰な糖が血管の内皮細胞を傷つけ、その傷口からコレステロールなどが入り込み「プラーク」と呼ばれる粥状の物質を形成する。そして、プラークがたまることで血管が硬くなり動脈硬化が進行する。放置すると血圧が上昇することで血管壁が避けて大動脈解離を起こしたり、プラークが破けて脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすリスクが高いことが分かっている。そのため、糖尿病では心疾患や脳血管疾患のリスクが糖尿病でない方に比べ2~3倍高くなる。こうしたリスクを低減させるために、動脈硬化を早期診断、予防することが重要である。近年、頸動脈エコーにおいて頸動脈の血管の状態を継続的に観察することで動脈硬化を早期発見することができ、心血管、脳血管疾患を予防することにつながることが期待されている。 また、糖尿病では、過剰な糖が腎臓のろ過機能に大きな負担をかけることによって、交感神経が優位になりやすい。その結果、脈拍増加や腎臓でのナトリウム・水の再吸収の増加、血管の収縮により血圧上昇が起こり、高血圧を合併していることが多く、動脈硬化を悪化させる要因となる。さらに、食塩を摂取することにより血圧が高くなる「食塩感受性」も見られるようになる。また、自律神経の1日の日内変動が健康な方に比べ少なくなり、交感神経優位な状態が続くため、身体的・精神的ストレスが少しかかるだけでも、急激な血圧上昇を引き起こしやすいことが分かってきた。 このような背景から、糖尿病患者を動脈硬化のハイリスク群と考え、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022』では、糖尿病患者のLDLコレステロールの管理が階層化され厳格化された。末梢動脈疾患、細小血管症合併時、または喫煙ありの場合は、LDLコレステロール100 mg/dL未満、これらを伴わない場合は120㎎/dl未満を目標とする。 糖尿病患者に対するリスク管理は包括的に行うことが重要であり、血糖値以外にLDLコレステロール、血圧、体重の管理をしっかりと行うことで、動脈硬化による心疾患、脳血管疾患、さらには腎症、網膜症、神経障害など幅広く合併症を予防することができると考えられる。
全粒粉・大麦の活用による糖尿病予防主食を全粒粉や大麦を使用した食品に変えることで、糖尿病をはじめとした生活習慣病の予防につながるのではないかという研究結果が発表された。全粒粉や大麦は、精白されていない穀物で全粒穀物と呼ばれており、全粒穀物は精白されているものと比較し、食物繊維が多く含まれているといわれている。日本人にとって穀物は主要な食物繊維源となっているため、穀物の質が生活習慣病の予防の鍵になるといえる。どの種類の穀物が有効であるかはまだ研究段階だが、今回の研究で全粒粉と大麦が有効ではないかという結果が発表された。 全粒粉には、「アラビノキシラン」という食物繊維が豊富であり、全粒粉100%のパンと小麦粉100%のパンを食べた時の食後血糖値を比較すると、全粒粉100%のほうが食後血糖値の上昇を抑えるという結果がでた。また、1日3食中2食の主食を全粒粉100%のパンにすることで、内臓脂肪が減ったという研究結果もある。内臓脂肪が減ると、インスリン抵抗性が改善されるため糖尿病の予防につながると考えられる。これらの理由としては、アラビノキシランにより胃の中の滞留時間が長くなり、消化吸収の速度が遅くなることから血糖値の上昇を抑えることができたと考えられる。また、アラビノキシランは消化されにくいため大腸まで届き、腸内細菌により発酵され短鎖脂肪酸がつくられる。短鎖脂肪酸は、消化管ホルモンのGLP-1の分泌を促しインスリン分泌を促進する働きがあり、血糖値を上げにくくするといわれている。また、GLP-1は脂肪細胞に働きかけて、脂肪細胞の肥大を防ぐはたらきもあるといわれている。 そして、大麦には「βグルカン」という食物繊維が豊富である。βグルカンの実験では、精白米と大麦を1:1の割合にした大麦ご飯と精白米のみのご飯を食べたときの食後の血糖値を比較した結果、大麦ご飯の方が食後の血糖値の上昇を抑えることができた。インスリンの分泌量も少なかったため、インスリンの節約となり糖尿病予防につながると考えられる。また、1日3食中2食の主食をβグルカンを含む麦ご飯にすることで、BMI、腹囲、内臓脂肪が下がったという研究結果もある。そのため、内臓脂肪型肥満の改善にもつながると考えられる。これら理由としては、アラビノキシランと同じようにβグルカンも胃の滞留時間が長くなることや、腸内発酵により短鎖脂肪酸がつくられたためと考えられる。大麦のβグルカンの特徴としては、粘性を持つため糖質・脂質の吸収を抑える働きがある。また、大麦のβグルカンには、セカンドミール効果というものがあり、大麦のβグルカンの腸内発酵が行われるのは食後数時間後であるため、大麦のβグルカンを多く含む食品を食べると、次の食事でも食後血糖値の上昇を抑えることができるといわれている。 主食を全粒粉や大麦を使用している食品に変えることは、比較的容易に行うことができるため実践しやすい生活習慣病の予防方法といえる。 |